〜新たな治療薬候補として有望視、作用機序にUSP18が関与〜
国際健康科学研究院は、この度、同院からの投稿論文が採択されたことを発表し、その論文の主旨を公開しました。本研究は、がん治療の大きな課題である放射線誘発性肺障害(RILI)に対し、天然由来成分であるタキシホリン(Taxifolin: TXF)が有効な保護効果を示す可能性を明らかにしたものです。
1 研究の背景と目的
がん治療において放射線療法は有効な手段ですが、治療に伴う副作用、特に肺の放射線誘発性肺障害(RILI)は、患者のQOL(生活の質)を著しく低下させ、命に関わる深刻な合併症です。そのため、安全で効果的なRILIの予防・治療法の開発が強く求められています。
国際健康科学研究院の岡部秀二氏、上田浩平氏らは、東京医科大学医学部の栗原秀和氏らとの共同研究により、フラボノイドの一種であるタキシホリンに着目し、そのRILIに対する保護効果と詳細な作用機序の解明を試みました。
2 研究の主要な知見
① 生存率の改善と炎症・線維化の抑制
マウスを用いた実験モデルにおいて、胸部に放射線を照射した後にタキシホリンを投与した結果、非投与群と比較して生存率が有意に改善し、放射線による体重減少も抑制されました。
さらに、肺組織の病理学的評価では、タキシホリンの投与により、放射線によって引き起こされる炎症や肺線維化(肺が硬くなる現象)の程度が顕著に軽減されていることが確認されました。
② 作用機序:鍵となるタンパク質「USP18」の制御
研究チームは、タキシホリンがRILIを軽減するメカニズムを分子レベルで追求しました。その結果、放射線誘発性肺障害モデルで発現が著しく増加していたタンパク質、ユビキチン特異的プロテアーゼ18(USP18)に着目。
タキシホリンがUSP18の発現を用量依存的(投与量に応じて効果が高まる)に減少させることを発見しました。このUSP18の抑制を介して、タキシホリンは炎症性サイトカインの産生や細胞死(アポトーシス)を抑え、肺の損傷を防いでいる可能性が強く示唆されました。
3 結論と今後の展望
本研究は、タキシホリンがUSP18の制御を通じて放射線誘発性肺障害に対して強力な保護効果を持つことを初めて科学的に実証しました。
この成果は、タキシホリンが将来的に放射線治療を受ける患者のための新たな予防・治療薬候補として有望であることを示唆しており、がん治療の安全性の向上に大きく貢献することが期待されます。
タキシホリンはUSP18/Rac1/JNK/β-カテニン発癌シグナル伝達を阻害するメラノーマ増殖/移動を阻害する J-GLOBAL 科学技術総合リンクセンター
